不動産投資家が収益物件の購入を検討する際、まず目を通すのが「不動産物件概要書」です。
しかし、「どこで物件の良し悪しを評価するのか分からない」「専門用語が理解できない」と感じることも少なくなく、本来は重要な情報を読み飛ばしてしまうケースもあります。
この記事では、物件の基本情報や法令上の制限が記載された「物件概要書」の読み方について解説して参ります。
下記は、私たちが扱うリゾート地の不動産物件概要書サンプルです。
表記方法は各社さまざまですが、基本となる項目はどの物件概要も大きくは変わらないでしょう。今回は(1)基本情報(2)土地(3)建物(4)法令上の制限(5)その他―の5つのカテゴリーに分類し、1つ1つをチェックしていきましょう。
物件概要(サンプル)
(1)基本情報 物件名|湯河原保養所 価格|20,000万円(税込) 住居表示|神奈川県足柄下郡湯河原町〇〇100-1 (2)土地 (3)建物 (4)法令上の制限 (5)その他 |
(1)基本情報
①価格
建物価格は消費税の課税対象となります。収益物件の場合、通常は税込み価格で記載されていますが、まれに税抜き価格となっている場合もあります。
あくまでも売主が売りたい価格であり、交渉は可能です。
②所在地
住居表示は建物につけられた番号で、住居表示法に基づいて市町村が定めます。
地番とは土地の一筆ごとにつけられた番号のことで、登記情報の取得などに使われます。
(2)土地
③地目
土地の用途による分類で、「田」「畑」「宅地」など20種類以上存在します。
登記簿と現況が異なっていることもあります。地目が田畑の場合、事業用に使用するなら農地転用が必要です。農業振興地域(農振地域)の場合、そもそも農地転用が不可であったり、時間と労力を要したりするのでお薦めできません。
④土地面積
㎡数または坪数で表記され、両方が併記されていることも多いです。
登記上の面積と実測の面積が一致しなかったり、実測の表記がなかったりする場合があります。これは実測をしていない可能性が高いため、境界を確定した測量図がないと考えられます。境界が確定していない場合は、確定測量にコストがかかる事、隣地の所有者と境界線を明確にすることが必要です。まれに、隣地所有者ともめる事もあるので注意が必要です。
⑤権利
所有権は土地の所有者になって自由に使える権利、借地権は土地所有者から土地を借りて建物を建てるための権利です。
所有権の場合は、固定資産税や都市計画税の支払い義務が生じ、借地権の場合は、土地所有者に地代を払う必要がある。
⑥接道
敷地が接する道路の方角と種類、幅員をあらわしています。
接道義務とは、建築物の敷地が建築基準法で定められた道路(原則として幅員4m以上の道路)に2メートル以上接していなければならないという義務です。
接道義務を満たしていない土地は原則として建物建築が不可ですし、既存建物がある場合も再建築不可となります。
接道義務を果たしていない農道に接していたり、私道に接道している場合、事業を行う時に私道共有者と揉めたりするリスクもあるので注意してください。
(3)建物
⑦構造
建物の構造と階建てです。
銀行から融資を受ける際に重要な法定耐用年数は、鉄筋コンクリート造47年、重量鉄骨造34年、軽量鉄骨造27年または19年、木造22年となります。
➇建築面積・延床面積
建築物を上から見た面積が建築面積で建蔽率の計算に使われます。
一方、各階の床面積を合計した面積が延床面積で容積率の計算に使われます。
⑨築年月
その建物がいつ建設されたかです。新築の場合は竣工予定時期を表します。
⑩その他
箱根や伊豆半島等のリゾート観光地では、よく温泉の引き込みが可能であったりしますが、別途引込費用はかかります。
(4)法令上の制限
⑪都市計画
土地利用を適正に行うための計画です。
優先的・計画的に市街化を図るべき「市街化区域」と、市街化を抑制すべき「市街化調整区域」があり、基本的には市街化調整区域に建物を建てることはできません。
建物の建築目的で行う一定面積以上の土地の区画形質の変更には開発許可が必要です。
開発許可が必要になるのは、市街化区域の場合1,000㎡以上、非線引き(無指定)の都市計画区域の場合は3,000㎡以上、都市計画区域外の場合10,000㎡以上のケースです。開発許可には想定外の時間とコストがかかりますので、要注意です。
⑫用途地域
都市計画法に基づいて市街化区域を全13種類に区分し、建築できる建物と規模を表す。用途地域によって建蔽率や容積率の制限が変わり、銀行の土地評価にも関係します。
用途地域のうち、住専地域、田園地域、工業地域、工業専用地域では旅館業の営業をすることが出来ません。
⑬建蔽率・容積率
建蔽率は敷地面積に対する建築面積の割合で、用途地域によって指定されます。100㎡の土地で建蔽率50%であれば、建築面積50㎡までの建物を建設できます。
容積率は敷地面積に対する延床面積の割合です。100㎡の土地で容積率80%であれば、延床面積は80㎡まで建設できます。
⑭その他
その他、法令上の制限が書かれています。
その制限が、事業にどのような影響を及ぼすか確認が必要です。
物件概要書の情報を鵜呑みにせず、行政の窓口に一つずつ自分で確認しないと、思わぬところに落とし穴があります。
リゾート地の不動産の場合、都会の住宅やマンションとは違う、様々な制限がかかりますので、扱う不動産屋さんも不慣れで知らない事が多いです。不動産屋さんの言葉を軽々しく信用しないようにしましょう。
(5)その他
⑮現況
物件の状況を示す項目。更地、造成工事中、空家、賃貸中などです。
⑯引渡
購入後の引き渡し時期です。「相談」となっている場合が多く、売主と買主が相談して引渡日を決めます。「農地転用後に引き渡し」等の条件付き物件もあります。
⑰取引態様
不動産取引において、不動産会社の関与を示します。「売主」「貸主」「代理」「媒介(仲介)」に分かれ、媒介には「一般媒介」「専任媒介」「専属専任媒介」の3種類があります。
⑱備考
その他の費用条件や制限事項などが記載されます。
例えば購入した土地に行政の安全基準に満たない擁壁が存在している場合、造り直すように命じられることがあります。数千万単位で別途費用がかかってきますので、備考欄も注意してみましょう。
たった1枚の物件概要書から読み取れる情報はさまざまで、リゾート不動産特有のポイントがあります。
各項目の見方を学び、自分の基準に合致するか、隠されたリスクがないかをしっかりと把握できるようになることが重要です。